実践・ノウハウ
2026.04.10
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「単語はわかるのに、話せない」。その止まり方は、生徒によって全部違う。

執筆者

オンラインTESOL協会

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この記事で学べること

最新の英語教育理論と実践的なノウハウをわかりやすく解説します。 TESOL資格取得を目指す方、英語教育に携わる方必見の内容です。

生徒が「単語はわかるのに、話そうとすると止まります」とつぶやく。

この一言を聞いたとき、何が起きているのかをすぐに見抜ける先生と、とりあえず「もっと話す練習をしよう」と返す先生では、その後の授業がまったく変わります。

止まっている理由は、生徒によって違います。知識の問題ではなく、恐怖の問題である場合もある。練習量の問題である場合もある。処理速度の問題である場合もある。

同じ症状に見えても、原因が違えば、対処法も変わります。

TESOLが「授業設計」として学ぶのは、まさにここです。


生徒A:間違えることが怖くて、口が開かない

生徒Aは、英語の知識はしっかりある。単語も文法も、テストでは点が取れる。でも話そうとすると、頭の中で文を完成させてから話そうとして、そのまま固まる。

「これで合ってるかな」「変な文になったらどうしよう」。その考えが先に来て、声が出ない。

これはKrashen(1985)が提唱した「情意フィルター仮説」が示す状態です。不安や恐怖が高まっているとき、どれだけ良いインプットを与えても言語は定着しにくい。感情が、学びへの入口を塞いでしまうからです。知識の問題ではなく、心理的な安全の問題です。

TESOLではこれをどう学ぶか

TESOLのカリキュラムには、学習者の動機や自信を高めるための指導戦略が含まれています。信頼関係の築き方、成功体験の設計の仕方、フィードバックの与え方。「なんとなく雰囲気よくしよう」ではなく、フィルターを下げるための設計を体系的に学びます。

この生徒に必要な授業設計

まず、間違いが起きにくい状況をつくることから始めます。"Did you watch anything interesting recently?" のように、Yes / No で答えられる質問だけで会話を進める時間を設ける。正解がない "What do you think?" という形の問いを使う。どんな答えも間違いにならない状況をつくる。

正しく話そうとする意識を一度手放してもらうために、音読から入ることも有効です。書かれた文を読むだけなら、自分で文を組み立てるプレッシャーがない。その成功体験を積み重ねてから、少しずつ自分の言葉に移行する。

「間違えても前に進める」という体験を授業の中で繰り返す。それがこの生徒への設計です。


生徒B:知識はあるが、アウトプットの経験がほぼゼロ

生徒Bは、単語も文法も頭に入っている。英文を読むのは得意で、リスニングもある程度こなせる。でも話そうとすると止まる。

原因は単純で、話す練習をほとんどしてこなかっただけです。インプットに比べてアウトプットの経験が圧倒的に少ない。

Swain(1985)の「アウトプット仮説」は、言語習得にはインプットだけでなく、実際に話したり書いたりする機会が不可欠だと示しています。わかっている状態と、使える状態は違う。アウトプットを通じて初めて、言語は自分のものになっていきます。この生徒はその段階にまだ来ていないだけです。

TESOLではこれをどう学ぶか

TESOLでは、学習者が段階的にアウトプットへ移行できる授業設計を学びます。どのタイミングで何を話させるか、どう足場を組んでから自由に話す場面へ移るか。アウトプットを「いきなり求める」のではなく、「引き出せる状態をつくってから求める」という設計の考え方です。

この生徒に必要な授業設計

まずアウトプットの量を増やすことが優先ですが、いきなり自由に話させるのではなく、段階を踏みます。

最初は「穴埋め会話」から入ります。"I went to _____ last weekend." という形で、単語を入れるだけで文が完成する形を使う。次に、先生が話した文を繰り返させる「リピート練習」。そこから徐々に、自分の言葉で答える問いに移行する。

また、話す前に「3秒考える時間」を意図的に与えることも重要です。「すぐ答えなくていい」という設計にするだけで、アウトプットの量が変わります。この生徒には「引き出す量を増やす設計」が必要です。


生徒C:英語で考えながら話すという同時作業が追いつかない

生徒Cは、ゆっくり話すと言葉が出てくる。でも会話のテンポになると途端に止まる。急かされると特にひどくなる。

これは処理速度の問題です。英語で考えることと、英語で話すことを同時にやろうとすると、処理が追いつかない。日本語なら無意識でできることが、英語ではまだ意識的な作業として残っている。

Krashenのインプット仮説(i+1)でいえば、「会話のテンポで話す」はこの生徒にとってまだi+2かi+3の負荷がかかっている状態です。今の力より少し上の負荷でなければ、習得は起きない。

TESOLではこれをどう学ぶか

TESOLのスキャフォールディング(足場がけ)の授業設計では、レッスンの最初に十分なサポートを提供し、そのサポートを少しずつ取り除いていくことで、学習者が新しい言語を独立して使えるよう導く方法を学びます。処理の負荷を下げるとはつまり、足場を正しい順番で設計するということです。

この生徒に必要な授業設計

まず、会話のテンポ自体を落とします。先生側がゆっくり話し、答えるまでの時間を長く取る。「沈黙は失敗ではない」という空気を意図的につくる。

次に、よく使う表現を「チャンク」として体に入れる練習をします。"I think...", "Actually...", "Well..." のような、考える時間を稼げるフィラー表現を先に覚えてもらう。これだけで、話しながら考える負荷が下がります。

また、同じトピックを繰り返し話す「リピートトピック練習」も有効です。一度話したことを翌週また話すと、内容を考える負荷がなくなり、言語表現だけに集中できる。処理速度は、こうした繰り返しの中で少しずつ上がっていきます。


3人に共通していること

生徒A・B・Cはそれぞれ、止まる理由が違いました。

Aは恐怖。Bは経験不足。Cは処理速度。

でも3人全員、「単語はわかるのに話せない」という言葉を使います。表面の症状は同じでも、中で起きていることはまったく違う。

だから「もっと話す練習をしよう」という一言では、Aには届かない。Aに必要なのは練習量ではなく、安心して間違えられる場所です。

止まっている場所を見つけて、その生徒だけに合った一手を返す。それが、TESOLが「授業設計」として学ぶことの核心です。

英語ができる人と、英語を教えられる人の差は、ここにあります。


「自分もこう教えられるようになりたい」と思ったら

この3つの対応は、感覚や経験だけでは難しい。

TESOLで学ぶ理論
・情意フィルター、アウトプット仮説、スキャフォールディングがあって初めて、
「なぜその一手なのか」が自分の中に根拠として入ります。

根拠があると、初めて会う生徒にも、迷わず対応できるようになります。


参考文献

  • Krashen, S. D. (1985). The Input Hypothesis: Issues and Implications. Longman.
  • Swain, M. (1985). Communicative competence: Some roles of comprehensible input and comprehensible output in its development. In S. Gass & C. Madden (Eds.), Input in Second Language Acquisition. Newbury House.
  • TESOL International Association. (2018). The 6 Principles for Exemplary Teaching of English Learners. tesol.org
  • OnTESOL. (2022). Scaffolding & Teaching Beginners. ontesol.com

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